「星巡る方舟は、どこから切っても突っ込みどころ満載で、商業的には失敗したと思っていたのだが、ここに来て雲行きが怪しくなってきた」
「というと?」
「BDの売上げがオリコン1位とか。いろいろ不穏なニュースも飛び込んできているからさ」
「そもそも、なんであの出来で人気が出るの? 君が握手券目当てに1万枚買ったとか」
「握手券なんて付いてないよ。ってか、おいらは1枚も買ってないよ」
「じゃ、なぜ?」
「さすがにある程度は理由を考えざるを得ない」
「あの映画に何か見るべき場所はあった?」
「そうだな。自分は別にメリットとはあまり思っていないが、以下のような要素は長所と受け取る人がいるかもしれない」
- とりあえず古代君は活躍した
- バーガーは可愛かった
- スタートレックのファンは喜んだかも知れない
- 音楽は良かった
「ちょっと待て。スタートレックのファンは喜んだかも知れないってヤマトファンは?」
「あの映画はね。古代ファンとスタートレックファンの居場所はあってもヤマトファンの居場所はないの」
「分かった。いるのかいないのかも定かではないヤマトファンではなく、古代ファンとスタートレックファンを動員できたから売れたわけだね?」
「日本にどれほどスタートレックのファンがいるのかも分からないがね。ただ、昔から古代ファンが大勢力だったことは、昔のOUTのヤマト特集に載っていた裁判漫画の時代から同じことなのだろう」
「でもさ。男でも方舟に興奮している人がいるよ」
「そう。そこからが本題」
「ってことは何かに気づいたの?」
「そうだ」
「それはなに?」
「危機感の問題」
「危機感とは?」
「ここでこけたら、もうヤマトは儲からないということになり、もう新作が作られないかもしれないという危機感」
「うはっ! 確かにそれは危機だ」
「個人的には新作無くてもいいんだけどね」
「まあまあ。それで?」
「その危機感が、使命感に変わってしまい、意図せずして大きなうねりを産んでしまったのではないだろうか」
「ヤマトファンなら【ヤマトを救う使命を帯びて戦う男】に燃えるロマンを感じてしまうわけだね」
「でも、実際にはヤマトを滅ぼす方向に事態は向かっていると思うよ」
「というと?」
「結局、この映画が売れるということになれば、もう古代君とバーガーがいるスタートレック作ればそれでいいということになり、ヤマトらしいヤマトはもう作られないことになる。レベルも一般映画としてヒットする水準は求められなくなり、一部の熱狂的マニアに向けて低い水準で作られる続けることになる。沖田の帰りを信じて待っている土方のところにヤマトが戻ってくる日は来ない」
「それは……。困るな」
オマケ §
「もっとも、沖田の帰りを大人しく待っている土方がヤマトらしいのかという問題もある」
「っていうと?」
「土方って、もっと積極的な人だろ。ただ待っているだけの人じゃないだろ」
「斉藤も、ひたすら苦情を言うだけの人じゃないわけだね」
オマケ2 §
「で、このままヤマトがスタートレックになってしまったらどうする気?」
「別にどうもしない。それを供給する人がいて消費する人がいるのなら、それでビジネスは成立するのだろう。自分はそのサイクルの外側にいるというだけだ」
「なんで外側なの?」
「自分はスタートレックのファンではないからさ」
「意識的にスタートレックでもスターウォーズでもなく、ヤマトを選んだ筋金入りのヤマトファンだってことだね」